看護研究の研究目的はとことん絞る!!実践編


前回の記事では、研究目的を小さくする必要性について紹介しました。

今回は、インシデント・アクシデントを例に実際の研究目的の立て方を考えてみたいと思います。

インシデント・アクシデントの減少はとてつもなく大きい

研究に取り組むにあたって、師長さんから下のような提案(命令?)がありました。

昨年度、インシデント・アクシデントが増えたから減少させるような研究をして。

提案でしたが、チームメンバーと相談し、インシデント・アクシデントの減少に取り組むことにしました。
そして、決めたテーマが、

適切な介入による、インシデント・アクシンデントの減少

はっきり言います。
絶対失敗します。

失敗する理由

適切な介入による、インシデント・アクシンデントの減少

この研究目的が失敗する理由はいくつかあります。

前提条件として・・・

インシデント・アクシデントは本当に増えたのか?
まず、この点を確認する必要があります。
場合によってはこの分析だけでも研究をすることができます。
増えた可能性としては・・・

  • 本当に増えた
  • 患者数が増えた
  • 特徴的な患者の存在
  • 記載率の変化
  • なんらかの環境の変化があった

実際に増加してしまった可能性のほか、
患者数が増えたことによる増加の可能性があります。
この場合は、
$$発生率= \frac{インシデント・アクシデント発生数}{患者数}$$
により、発生率などで比較するのがいいでしょう。
ただし、患者数は単純な入院数ではなく、
平均在院日数×患者数とするなど工夫の必要がありそうです。
発生数に影響を与えた患者の存在を考慮する必要もあります。
1人だけが何度も転倒した場合などは、その影響を除く必要もあります。
また、実際に増加したのではなく、
インシデント・アクシデントレポートの記入率の変化も考えられそうです。
他には、環境の変化も考えられそうです。
診療科目の変化、スタッフの大幅な入れ替えなどです。
もちろん、患者数の増加も含まれるでしょう。

大きすぎる研究目的

インシデント・アクシデントの減少

が大きすぎする理由。それはインシデント・アクシデントが集合体だからです。
インシデント・アクシデントと言っても、

  • 転倒・転落
  • 身体損傷
  • 薬の誤投与・無投与
  • 無断離院

など様々な場面が含まれています。
短い研究期間では、すべてに対する対策を立案していくことは困難でしょう。

定まっていない介入方法

適切な介入とは、どんな介入でしょう?
適切な介入を実際に行うためには、

  • 過去の事例の抽出
  • 抽出事例の分析
  • 実行可能な介入方法の検討
  • 介入方法の提案と周知・統一

といった手順が必要となります。
特にスタッフへの手順の周知や統一はなかなか進まないかもしれません。
また、実際の臨床場面で実行可能な手順かといった検討も必要になります。
例えば、内服の渡し間違いが多いことに対し、

配薬は複数のスタッフで患者名等を確認し渡す

という手順を作ったとします。おそらく、渡し間違いは減少するでしょう。
しかし、常に2人で配薬に回ることは現実的ではないでしょう。
そのため、実際の臨床場面で実行可能な手順を提案していくことが必要となります。
インシデント・アクシデントが様々な場面の集合体であることから、
各場面に対して検討・提案していくことが必要となりますが、
1回の研究でするには、限界があるでしょう。

比較対象が難しい

過去の事例の抽出や検討、介入方法の検討を行い、
実際に手順の統一を行なったとします。
目的はインシデント・アクシデントの減少なので、
減少したかを消化する必要があります。
過去のデータは、増加したとされる昨年度とその前の一昨年でいいでしょう。
介入後のデータはどうしましょう。
介入後のデータを収集していくわけですが、期間的に厳しいかもしれません。

  • 研究計画書作成
  • 過去事例の分析
  • 介入方法の提案
  • 実際の介入期間

となるわけですが、この後にも研究をまとめる必要があります。
そのため、介入期間がどれくらい取れるかは最初に検討しておく必要があります。
また、検討した介入期間でどれくらいの事例が集まるかも検討する必要があります。
(インシデント・アクシデントであれば、0という可能性もありますが・・・)
あまりにも期間が短いと、

「たまたま発生しなかった可能性」

を指摘される可能性があります。
 

適切な研究目的とは?

適切な介入によるインシデント・アクシデントの減少

という研究目的の問題点は、

  • インシデント・アクシデントが様々な場面の集合体
  • 「適切な介入」が定まっていない
  • 比較データを収集することが難しい

でした。
ということでこの問題点を1つずつ考えてみましょう。

インシデント・アクシデントが様々な場面の集合体
→1つの場面にしてみる

インシデント・アクシデントはいろんな場面の集合体です。
なので、1つの場面に絞れば、問題解決です。
場面の選択方法としては、

  • 研究メンバーの興味関心
  • 発生数の多さ
  • 重要度(発生時の重症度)
  • 急上昇している場面

などがあります。
特に注目して欲しいのが1番下です。
発生が多いわけではないが、急に多くなっているような事例は要注目です。
発生数が少ないため、注目されないかもしれませんが、
ある時期から発生している様な事例では、これから増加が予想されます。
こういった場面への介入は効果的な介入と言えるでしょう。

「適切な介入」が定まっていない
→介入場面を絞ってしまう

効果的な介入方法を多数立案し、
それを周知することはかなりの労力を伴います。
それであれば、介入場面を絞ってしまいましょう。
もちろん、転倒や誤投薬などでも絞りますが、さらに絞ってしまいます。
転倒であれば歩行中か臥床中か。
誤投薬であれば内服薬か点滴か。
もちろん、絞りすぎると過去の事例も少なくなってしまうので注意が必要です。

比較データを収集することが難しい
→評価方法を工夫する

介入前後で比較するには、発生数や発生率で評価します。
しかし、元々の発生率が低い場合や介入後のデータ収集期間が短い場合は、
単純な比較では評価が難しくなります。
そのため、発生数や発生率に加えて、他の評価指標を導入するといいでしょう。
例えば、手順が遵守できているかを抜き打ちでチェックし、その遵守率で評価します。
また、統計処理にこだわらないという選択もあります。
看護でも症例研究(ケースレポート)が行われますが、1例である必要はありません。
症例集積研究(ケースシリーズ)という、症例を複数集めて検討するものです。
医学では50例程度の症例集積研究も行われており、
場合によっては症例集積研究は1つの選択肢になります。

実際に研究目的を考えよう

ここまでの検討を踏まえて具体的な研究目的を考えたいと思います。

どの場面を選択するか

病棟の環境にもよりますが、多く発生している1つには「転倒」があります。
転倒は、骨折などを生じ、ADLの低下や入院期間の延長に繋がります。
研究する価値は十分あるでしょう。

さらに絞ってみる

転倒と1口に言ってもさまざまな場面で発生します。
すべての場面に当てはまる方法を考えると抽象化してしまいます。
研究メンバーの関心が、

離床初期に起こる転倒を減らしたい

というものであれば、離床開始1週間程度に絞ってしまいましょう。
また、疾患も整形外科領域に限定してしまいます。

介入方法は?

この研究でしたいことは、

整形外科領域の離床1週間以内の患者が起こす転倒を減らしたい

です。
過去のデータをみると、

患者自身がもっと動けると思って動いた

という理由が多い。
そこで、リハビリテーションスタッフとも協力し、
患者・看護師・リハビリテーションスタッフの3者でADLについて確認を行い、
ベッドサイドに掲示することにします。

評価方法は?

評価方法は、離床1週間以内の転倒数と転倒発生率のデータとします。
また、ADLについて確認できた割合でも評価することにします。

まとめ

今回は、実践編としてインシデント・アクシデントを題材に
具体的は研究目的を考えてみました。
研究目的は、研究を進めていく上で核となるものです。
みなさんを取り巻くさまざまな状況を踏まえ、
適切な研究目的を立ててみてください。
Let’s enjoy nursing research!!

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